人材育成の方針を適切に定めるための視点|コラム|人材育成・教育研修

2017.04.24

人材育成の担当者が社員の人材育成を検討するとき、「この年次の社員に実施する研修は…」といった具合に、目先に迫った施策に焦点が当たりがちです。しかし、この視点だけでは、会社の将来を考えている経営者の視点とは必ずしも合致せず、経営からずれた方針を設定しかねません。このコラムでは「経営の視点に立って人材育成の課題を考える」ためのポイントをお伝えします。

経営の視点に立った「人材育成の方針」の定め方

人材育成の方針を考えるとき、「若手のコミュニケーション力を向上させるためには」あるいは「営業部門から要請のあった、メンバーの交渉力向上をどうするか」といった具合に、「目の前の施策をどうするか」を課題として考えるケースも多いと思います。もちろん、このような視点から人材育成の方針を考えることは非常に大切です。しかし、人材育成に携わる立場の方にとって、その視点だけで本当に十分なのでしょうか。そもそも、企業にとっての人材育成の方針を考えるときには、どのような視点が必要になるのでしょうか。

人材育成の方針を適切に定めるために、企業全体の動きから考えてみましょう。一般的に、企業経営は下記のように理念や方針、戦略が設定されながら運営されていきます。

  • ・企業理念やビジョン、経営方針(長期的な指針)
  • ・具体的な行動を生み出すための経営戦略(中長期の指針)
  • ・経営戦略の一環としての人事戦略(等級制度や人事評価、賃金、人材育成、採用)

また、企業経営は常に外部環境の変化にさらされているため、経営戦略としての人事戦略も外部環境の変化に対応していくことが求められています。これらを踏まえ、企業にとって望ましい人材育成の方針を検討するための視点を考えると、以下の3つに整理されます。

  • (1)外部環境に基づく経営戦略を正しく理解する
  • (2)経営戦略を実現するための組織編制となっているかを確認する
  • (3)人材要件を「質」と「量」の面でとらえる

外部環境に基づく経営戦略を正しく理解する

企業が事業で成果を出すためには、様々な要因が影響します。外部環境とは、自社だけではコントロールできない要因のことを指し、以下のような例が挙げられます。

  • ・規制緩和によって参入障壁がなくなり、競合が増える
  • ・(会計、労務や安全衛生などで)法制化が進み、企業の対応が義務化されて市場や販路が拡大する
  • ・国内市場は縮小し、海外市場が拡大する

このような外部環境自体は変えることが難しいため、企業は経営戦略の見直しを迫られます。例えば、競合が増加したのであれば、新たな付加価値を加えた商品を投入したり、生産性の向上によってコストを下げたりするなど、外部環境の変化に対応していかなければなりません。つまり、外部環境の変化は最終的には社員の仕事内容の変化につながっていきます。そのため、人材育成に携わる方は、外部環境に基づく経営戦略を正しく理解しておく必要があります。

経営戦略を実現するための組織編制となっているか確認する

経営学者のアルフレッド D.チャンドラーが「組織は戦略に従う」※1と述べているように、経営戦略を正しく理解した次は、組織編制の確認が必要となります。限りのある経営資源で経営戦略を実現するためには、各部門の役割や責任が明確になっていて、必要な権限も付与されていなければなりません。特に経営戦略に見直しが生じた場合は、それに伴って組織編制が見直されることがよくあります。具体的には、「国内市場の縮小により海外に活路を見いだすため(経営戦略)、海外営業の専任部隊を新設する」、「重要顧客からの品質管理強化の要望に応えるため(経営戦略)、品質管理部門を製造部から独立させる」などが該当します。

今の体制は経営戦略を実現するための編制となっているか? 常に確認し、必要に応じて見直すことが求められます。

人材要件を「質」と「量」の面で捉える

そして、最後に経営戦略を実現するための人材像を「質」と「量」の面から検討します。まず「質」ですが、海外営業の専任部隊を新設した場合、従来の国内営業の業務に求められる知識やスキルに加え、下表のように新たな知識やスキルが求められることがあります。「新たに求められる知識やスキルが不足している」という課題を設定することで、人材育成の方針を立てることができ、それをもとに研修をはじめとした人材育成の手法が考案されます。

戦略変更により社員に新たに求められる知識やスキルの例

従来の国内営業 新設された海外営業
既存顧客に対する直販営業
売上に対する粘り強さ
自社の商品知識
社内調整力
新規の代理店開拓
マーケティングに関する知識
部門の収益を理解するための会計知識
異文化への環境対応力
語学力

次に「量」ですが、これは必要となる「人員数」を意味します。人材育成の観点から人材要件を検討すると、つい「質」の面にばかり目を向けがちですが、同様に「量」も大切です。市場拡大の追い風を機に支店数を拡大するのであれば、拡大する支店の数だけ支店長が必要となりますし、品質管理体制を強化するのであれば、商品や製造ラインなどに応じて十分な知識や経験を持った品質管理スタッフをより多く用意しなければなりません。「量」における人材課題の解決策には、採用によって外部から人材を取り入れるほかにも、人材育成によって内部の人材を「量」に数えられるようになるまで育てる方法もあります。人材育成の方針は「質」だけでなく「量」の面からも設定できると言えます。

このように、外部環境に基づく経営戦略を正しく理解することで、それを実現する組織編制や、実現する上での人材の「質」と「量」両面での課題を把握することができます。これらを把握することでようやく本来取るべき人材育成の方針を明確にできるようになります。

このように、人材育成の担当者は外部環境に基づく経営戦略を正しく理解することが求められます。現場からは「現在の課題」を解決するよう求められますが、それに偏って注力すると目の前の人材が育っている・育っていないという事象にばかり目を向けてしまい、人材育成の方針が近視眼的なものになってしまいます。自社の人材育成について、目先の施策だけに目を奪われるのではなく、経営戦略に基づいて人材要件に落とし込めているか、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

参考文献
※1 アルフレッド D. チャンドラー 『組織は戦略に従う』ダイヤモンド社 2004年

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